外毒素分子の構造

分子の構造から、複数のペプチドからなる複合毒素と、単一ペプチドからなる単純毒素とに分けられる。

 複合毒素は機能的に異なる2つのペプチド部分からなる毒素で、毒性を発揮する部分(Active site)と細胞のレセプターに結合する部分(Binding site)とからなるのでA-B成分毒素とよばれている。最初からそれぞれ別々に合成されるものと、最初は1本のペプチド(protoxin,progenitor toxinなどとよばれる)が合成され、これが切れて2つの機能部分に分かれる場合とがある。前者の例として、コレラ毒素、易熱性腸管毒LT、志賀毒素などがある。いずれも1つのAサブユニットと5つのBサブユニットからなる。破傷風、ジフテリア、ボツリヌスの毒素は後者に属する。ジフテリア毒素は分子量63,000の分子として合成され、その後菌によって分泌される蛋白分解酵素の作用によってペプチドに切り込みが入り、39,000のBフラグメントと21,150のAフラグメントに分かれるが、この両者はS-S結合により結ばれている。

 

 単純毒素は、1つのペプチドからなる毒素で、細胞膜に作用する細胞毒や溶血毒はこの型である。そのほか、最近の出す多くの毒素はこの分子形態をもっている。

 

複合毒素の一つである志賀毒素と、緑膿菌外毒素A (Ex-A)を例としてあげる。

 

*志賀毒素

  腸管出血性大腸菌

腸管出血性大腸菌は,志賀毒素(Shiga toxinStx)を産生する一群の大腸菌の総称で,そのほとんどは血清型O157H7であるが,O26O111など国内でも約20種類ほどの血清型が分離されている。また,毒素については,ベロ毒素(verotoxinVT),または志賀毒素様毒素(Shiga-like toxinSLT)と呼ばれていたが,最近では志賀毒素と呼称されている。                        (Medical Tribune誌による)

 

*緑膿菌外毒素A (Ex-A)

Ex-AADPリボシル化毒素であり、標的細胞の細胞質に存在する蛋白合成伸長因子elongation factor-2ADPリボシル化する事により細胞の蛋白合成を阻害する。X線結晶構造解析の結果からEx-AはドメインTa(アミノ酸残基1-252)、ドメインU(253-364)、ドメインTb(365-405)、ドメインV(405-613)から構成されることが明らかになった。

組換え変異体を用いた研究によりEx-A分子の構造活性相関につき解析が進んできた。

Ex-AはドメインTa を介して細胞表面に存在するα2-マクログロブリン/LDLレセプターに結合する。レセプターに結合した Ex-A はエンドサイトーシスにより細胞内のエンドソームに取り込まれる。取り込まれたEx-Aはエンドソーム内の低 pH 環境下で蛋白変性を起こし、さらにプロテアーゼの働きで 28K N 末側断片(ドメインTa-ドメインU前半),37K C 末側断片(ドメインU後半、ドメインTb、ドメインV)に切断される。切断により生じた37K 断片はドメインUおよびドメインV C 末の働きで細胞質に移行する。C末数アミノ酸が小胞体指向性アンカー配列(KDEL)に類似しておりなんらかの機構で移行に関与すると考えられている。細胞質に移行したEx-A37kD断片はADPリボシル化酵素活性(ADPRTase 活性)を発現し蛋白合成を阻害、毒性を示す。

緑膿菌外毒素A (Ex-A)Xのx線結晶構造解析の結果        (大塚浩史氏による)