内毒素の構造について
内毒素endotoxinは、毒素としての名称であるが、化学的にはリポ多糖類lipopolysaccharide(LPS)である。LPSはグラム陰性細菌においてタンパクやリン脂質とともに非対称の外膜を形成し、その脂質部分を外膜中へ埋め、多糖部分を菌の外側に向けている。このためLPSは菌体構成成分であり、細菌が破壊されない限り大量に放出されることはない。この点において、本来菌体外へ分泌される外毒素とは異なっている。
LPSは化学的には大まかにリピドAと呼ばれる脂質部分と多糖部分からできている。リピドAにRコアと呼ばれる一群の糖、さらにO抗原多糖と呼ばれる長鎖の糖が共有結合して構成されている。リピドAに内毒素活性の中心がある。O抗原多糖側鎖は、2〜6個の多糖からなるオリゴ糖(反復ユニットとも呼ばれる)が反復重合した多糖ポリマーである。特にこの多糖側鎖の非還元末端に位置するオリゴ糖ユニットには、グラム陰性菌の血清学的なO抗原特異性を決定する抗原決定基が存在している。O抗原多糖を欠くR型LPSは血清型別の決定基を失っている。O抗原多糖は菌の毒力とも呼ばれている。一方、コア多糖類は同一の属に含まれる菌種の間では同一か、もしくは非常に類似した構造をもっている。また、リピドAの一般的化学構造図は下に示す。
サルモネラや大腸菌などの多くの菌のリピドAには共通した基本骨格として、β(1→6)グルコサミン・ジサッカリド・バックボーンが存在している。その還元末端の1位と非還元末端の4’位のOH基は、共にリン酸基によって置換されている。また、3位と6’位(KDOを介してコア多糖に連結している)を除くOH基にはO−エステル結合でC数12〜16の直鎖および3−OH−脂肪酸がN−アミド結合によって存在している。これらの3−OH−脂肪酸の3位OH基は、多くの菌ではさらに別の直鎖脂肪酸によってアチル化されている。(ダブルアチル構造と呼ばれる)多くのグラム陰性菌のリピドAは、構成脂肪酸のC数の違いを除けば非常に類似した構造を持っており、菌種や属を超えて極めて類似した生物活性を示す。