カンピロバクター(Campylobacter)

グラム陰性のビブリオ状又はらせん状の桿菌で一端又は両端に鞭毛(べんもう)持ち活発に運動をする菌である。 普通の好気性の状態よりも、炭酸ガス濃度が3〜10%の微好気的な状態の方が発育に適している菌である。 古くからウシ、ヒツジ、ヤギなどの流産を起こす菌として知られていたが、分離されたのは比較的最近で、1972年にベルギーでの下痢患者からが最初である。 本来はウシやヒツジ、ブタなどのほか、ニワトリやイヌ、ネコが健康状態でも持っている細菌で、これらの動物の糞便(ふんべん)で汚染された鶏肉やブタ肉などの食肉や水、生牛乳などを介してヒトにも感染を起こすので人畜共通伝染病の病原体でもある。幾つかの菌種が存在し、それは C .fetus(2亜種あり), C.jejuni, C.coli, C.sputorum(3亜種あり)およびC.concisusの5菌種とC.fetus subsp fetusその他の5亜種に分けられている。そのなかでもヒトに病原性を示す菌種はC.fetus subsp fetus, C.jejuni, C.coliの三つの菌種だけである。重要なのジェジュニ菌(C. jejuni)、コリ菌(C. coli)とフェタス菌(C. fetus)である。 通常、ジェジュニ菌とコリ菌はその性質や病原性が似ているので、区別しないでC. jejuni/coliと表現する。 主にウシ、ニワトリ、ブタなどが保有し、特にニワトリでは保有率が高く、殆どの鶏肉からこの細菌が検出される。 家畜では不顕性感染(ふけんせいかんせん)が多く、余り発症しないが、ヒトでは経口感染後3〜5日の潜伏期を経て、発熱、頭痛、筋肉痛、腹痛を伴う嘔吐(おうと)、頻回の下痢で発症する食中毒原因菌である。 1982年に厚生省から食中毒起因菌として指定された。 C. fetusはヒツジやウシの流産の原因となる細菌であるが、ヒトでは敗血症、髄膜炎、心内膜炎などの全身感染を起こし、食中毒は起こさない。 近年、C.jejuniによる急性胃腸炎の集団発生(食中毒)が知られ、注目されてきている。


C. jejuni (カンピロバクター・ジェジュニー)

ウシ、ヒツジ、ニワトリ、イヌ、ネコ、水鳥など多くの動物の腸管内に分布しています。そのなかでも、ニワトリは主要な感染源です。ヒトには経口感染によって胃腸炎を起こし食品や飲料水を介して集団食中毒起こすこともあります。特に乳幼児は感染しやすく注意が必要です。カンピロバクターによる胃腸炎の潜伏期間は2〜7日で、発熱、倦怠感、頭痛、筋肉痛などの前駆症状があり、次いで吐き気、腹痛がみられ、その数時間後から2日後に下痢症状が起こります。下痢は水様便ですが、粘液や血便をみることもあり(小児では血便を伴うことが多い)、O157感染との見分けが難しいことがあります。通常、発熱は38〜39℃で、腸炎のほかに敗血症や関節炎、髄膜炎を起こすこともあります。


C.coli (カンピロバクター・コリ)

ブタの腸管内に分布しており、まれにヒトに下痢症を起こします。最近カンピロバクター属菌による腸炎は増加傾向にあり、C.hyointestinalis(カンピロバクター・ヒオインテスティナリア)が新しく下痢症を起こす菌として出現しています。食中毒菌以外のカンピロバクター属菌としては、下記の C. fetus がヒトに種々の疾患を起こす菌として有名です。


C. fetus(カンピロバクター フィタス)

この菌種には他に亜種 fetusと亜種 venerealisを含み、家畜に流産を起こす菌です。このうち亜種 fetusはヒトにも感染し、敗血症 や心内膜炎、関節炎、髄膜炎などを起こします。


カンピロバクターの病原性

C.jejuniは下痢を主徴とした急性胃腸炎を起こす。特に小児に多い。通常、食物あるいは水を介して、定型的には2〜5日の潜伏期の後、下痢、腹痛、発熱で発病し、血便も稀でない。多くは1週間以内に治癒し、死にいたることはほとんどない。家族内二次感染は起こさない。C.coliも腸炎を起こすが、本邦では少ない。C.fetus subsp fetusは家畜特に羊、牛の流産の原因となるが、ヒトでは多彩な全身感染症、特に髄膜炎、心内膜炎、敗血症を起こすことが知られているが、本邦では稀である。


カンピロバクター症の治療法

C.jejuniによる急性胃腸炎の集団発生の予防には、公衆衛生上の諸注意が必要である。治療にはアンピシリン、テトラサイクリン、クロラムフェニコールが有効で、対症的に輸液療法も行われる。C.fetus subsp fetusによる全身感染症にはテトラサイクリン、アミノ配糖体系抗生物質が有効である


体液性免疫

骨髄由来のBリンパ球による免疫である。Bリンパ球は抗原刺激にあうと大型の塩基好性の細胞(形質芽細胞)となる。これは粗面小胞体と多数の遊離リボソームををもち、分解能を発揮して抗体を産生する。これがさらに形質細胞に変化してγ―グロブリンを産生して体液中に放出する。たとえば何かの異物が体内に入ってきたとき、まずは食細胞の好中球やマクロファージが 異物を貪食する。 そしてマクロファージは異物がはいってきたことを、ヘルパーT細胞に伝える。ヘルパーT細胞は、その表面にある抗原受容体(T細胞の抗原受容体は「T細胞受容体(TCR)」という)マクロファージからの伝言ををキャッチし、異物が入ってきたことを免疫系全体に知らせる。 するとB細胞がその情報をもとに、形質細胞に変化して抗体をつくりはじめる。 このときB細胞は同じ抗体をもつ「記憶細胞」というものを作っておいて、次にその異物がやってきたときのためにそなえる。B細胞によってつくられた抗体は、抗原にしっかりとくっついて、それ以上の害を及ぼさないようにする。 とりおさえられた抗原は、マクロファージやキラーT細胞によって処理される。 そして抗原が全滅したとき、免疫反応の終了の合図が、サプレッサーT細胞によって行われる。 マクロファージ、T細胞、B細胞間の情報のやりとりは「サイトカイン」という物質を介して行われている。


シプロフロキサシン

抗生物質とは異なる、化学合成によって作られた抗菌薬のキノロン剤の一つ。セフェム系やアミノグリコシド系の抗生物質より強い。β―ラクタマーゼ産生菌にも有効。


菌血

細菌やウイルスが体内に感染した場合、その粘膜などに出血班ができること。


ギラン・バレー症候群

 末梢神経の炎症性脱髄によって急性の筋力低下をきたす疾患である。数日から2週間後に神経症候は極期に達し,その後数週間ないし数か月のうちに徐々に回復する。先行感染としてキャンピロバクター、肺炎マイコプラズマ、ヘルペスウイルス属などの感染があることが多い。1-3週間の潜伏期をへて末梢神経、神経根が障害される。小児では3〜4歳以上の児に発症することが多いが、新生児例も報告されている。

 障害されるのは主として運動神経であるが、感覚神経、自律神経も障害され、それに対応する症状(異常知覚、血圧の変動など)が出現する。筋力低下は約半数の症例では末梢側に、15%の症例では中枢側に優位である。外眼筋、顔面筋など脳神経支配領域が障害されることもまれではない。呼吸筋の麻痺も認められることがある。深部腱反射は減弱もしくは消失し、神経伝導速度の潜時が延長する。 髄液では、細胞数は増加しないが蛋白が増加する(蛋白細胞解離)。

 軽症例では治療はとくに必要としない。重症例では、呼吸管理などの対症療法に加え、ガンマ・グロブリン大量療法あるいは血漿交換療法が試みられ成人では有効とされている。重症例は呼吸障害に加え、自律神経障害に対応する時間単位に変動する血圧、不整脈などが出現し、これが死亡原因となるため集中監視室ICUでの管理が必須である。

 症状の進行は4週以内に停止し、6か月以内に末梢神経障害はかなり改善する。多くは後遺症なく治癒するが、10-20%の患者が筋力低下などの後遺症を残す。死亡例はまれであるが成人では15%という報告もある。3%に再発を認める。

 カンピロバクター・ジェジュニの菌体外膜の糖脂質とヒトの神経細胞表面の糖脂質の構造が非常によく似ており、カンピロバクター・ジェジュニを攻撃するために作られた抗体が、誤ってヒトの神経細胞を攻撃する自己免疫疾患であることが最近明らかになった。カンピロバクター・ジェジュニの先行感染を伴い抗GM1抗体の上昇した症例では、筋力低下が高度で回復が不良である。現在のところ抗GM1抗体の測定には健康保険は使えない。


ライター症候群

古典的には、尿道炎、結膜炎、関節炎を三主徴とする疾患で、20〜40歳を中心として、主に男性に発症する。性的交渉後や腸管感染症後の発症が多く、トラコーマクラジミアやフレキシナー型赤痢菌の関与が考えられる。尿道炎に由来する症状として、排尿障害、頻尿、膿尿を認める。結膜炎は軽症で、しかも一過性であるが、ぶどう膜炎の合併のために、これに由来する症状が存在することもある。関節炎の好発部位は、膝関節、足関節、中足趾節(MTP)関節などであるが、罹患関節数は少なく、左右対称性に乏しい。また、仙腸関節炎、脊椎炎、靭帯症に由来する症状を有することも多い。これらの他に、主要なものとして、環状亀頭炎と膿漏性角皮症がある。いずれも本疾患の約半数症例に出現するが、前者は亀頭環に沿った小潰瘍とびらんであり、後者は足底および手掌の小水泡や小丘疹で、乾癬に類似した外観を呈することもある。


Fisher症候群について

1全眼筋麻痺

2著明な小脳失調

3四肢腱反射の消失

を3主徴とする予後良好な三例をFisherが報告しこれをFisher症候群とした。


血清型とは

血漿に含まれる蛋白を分離することにより見出された。遺伝的に規定される多型、これを血清蛋白型(血清型)と呼ぶ。論文に登場した補体C3はこの遺伝的多型の存在する部分である。