発病機構入門グループ学習 G2

ヘルペスウイルスについて


GIO

ヘルペスウイルスについて感染方法、病態について理解する

 

SBO

以下の項目について、それぞれ説明することができる

・分類について (担当:江藤)

・感染機序について (担当:市島)

・病原性について (担当:稲田)

・検査・診断法について (担当:浦田)

・治療法について (担当:石原)

・現状について (担当:植川)

 


分類について

ヘルペスウイルス科に属するウイルスの共通の性状として次のことが挙げられる。

・φ120200nmのエンベロープに包まれた球形のウイルス。

・カプシドは正20面体で162個のカプソメアからできている。

・カプシドとエンベロープとの間にはテグメントと呼ばれるタンパクの膜がある。

2本鎖のDNAを持ち、分子量は80150×106

DNAの複製は核内で起こり、集合も核内で行われる。

・持続感染(慢性感染や潰瘍形成)を起こしやすく、再発をきたすのが特徴。

 

ヒトに感染するものには現在8種類ある(human herpesvirus:HHV18)。これらは生物学的性状により、α・β・γの3つの亜科に分類される。

αヘルペスウイルス亜科…HHV13

 宿主域はウイルスにより異なるが、培養細胞で速やかに増殖し生体内では、神経節に潜伏感染する。ゲノムの大きさは、110160kbpで内部の倒置反復配列をもち、アイソマーの数は4(HHV‐1,2)もしくは2(HHV‐3)である。

βへルペスウイルス亜科…HHV57

宿主域が狭く、培養細胞での増殖が遅い。生体内ではリンパ球、あるいは唾液腺に潜伏感染する。サイトメガロウイルスは、感染した細胞が巨細胞となり、その核内および細胞質内封入体を形成する。ヒトヘルペスウイルス6,7はTリンパ球に感染し、感染Tリンパ球は風船状に膨化する(ballooning)。ゲノムの大きさは、160240kbpである。サイトメガロウイルスは内部反復配列をもち、4個のアイソマーがある。

γへルペスウイルス亜科…HHV48

宿主域が狭く、EBウイルス及びヒトヘルペスウイルス8Bリンパ球に感染し、それぞれの感染細胞を不死化し、リンパ組織に潜伏感染する。

一般に、ヘルペスウイルス科のウイルスは、外因感染(初感染および再感染)に加えて体内に持続したウイルスによる内因感染を起こし、その病原性は宿主の抵抗性に依存する日和見病原体である。通常の宿主における初感染(外因感染)は、水痘の場合を除き、大部分は不顕性感染に終わり、顕性感染の場合も一般に軽症である。初感染後は体内の特定の組織に潜伏感染し、感染ウイルスは種種の誘因により再活性化して、内因感染に基づく回帰発症を起こす。一方感染防御能が未発達の胎児・新生児や後天的に低下している癌患者、臓器移植患者、エイズ患者などの易感染性宿主においては、外因感染及び内因感染の重症化や全身化がみられ、しばしば致死的な経過をとる。

 

 

 

@単純ヘルペスウイルス herpes simplex virus; HSVHHV1,2

・形態学的には、コア(タンパク),カプシド(タンパク),エンベロープ(糖タンパク、リピド)及びカプシドとエンベロープの間のテグメント(タンパク)で構成されている。

・コアはコアタンパクに2本鎖状のDNAが糸巻状に巻きついている。

・カプシドは、162個のカプソメアより構成され、正20面体を成す。1つのカプソメア(周囲を6個のカプソメアで取り囲まれるヘキソマー)は、φ8.5nm,長さ12.5nmの中空の6角柱である。

・コアとカプシドは一体となってφ100nmのヌクレオシドを形成し、さらに宿主細胞の細胞膜に由来するエンベロープを被ってφ180nmのビリオンを形成する。

・ビリオンの構成タンパクは30種類以上のビリオンペプチド(VP)から成る。

<エンベロープ>

ビリオンの構成タンパクのうち、10種類は糖タンパクで、それぞれgB(gAが前駆体),gC,gD,gE,gF,gG,gH,gI,gK,gL,gMと呼ばれ、エンベロープに含まれる。

gB,gD,gHは感染性HSVに必須である。(gBとgHはヘルペスウイルス全体に保存されている。)gCは細胞のレセプターへの吸着能、補体のC3bレセプター活性を持ち、gEはIgGのFcレセプター活性を持つ。

これらの糖タンパクに対する抗体は、ウイルスの中和活性を持つ。すなわち、これらの糖タンパクは感染防御抗原である。

<カプシド>

VP-5をはじめ6種類のタンパクで構成されている。

<テグメント>

ウイルス感染細胞で最初に生合成されるウイルスタンパク(αタンパク)の遺伝子をトランスに活性化するタンパクα‐trans activating factor(αTIFあるいはVP16とよばれる),感染直後に宿主細胞のタンパク合成を遮断するタンパク virion host shutt off proteinVHS)が存在する。

 

A水痘−帯状疱疹ウイルスvaricella-zoster virus; VZV (HHV3)

VZVゲノムは、ヒトヘルペスウイルスの中でもっとも小さく(125kbpG+C含量 47mol)、内部に倒置反復配列を持ち、2個のアイソマーが存在する。

・エンベロープは4種の糖タンパク (gpT,gpU,gpV,gpW)を含み、gpUは単純ヘルペスウイルスのgBと抗原的に交差する。

 

Bサイトメガロウイルス cytomegalovirus; CMVHHV5

・完全なビリオンはφ180nmのエンベロープおよびテグメントをもったヌクレオカプシドである。

感染細胞内に見出されるCMVの粒子においては、形態形成の過程に応じて、核内のAカプシド(DNAを欠く)およびBカプシド(DNAを含む),細胞質内のCカプシド(DNAを含みテグメントに包まれる)3種が識別される。

・感染細胞から遊離するCMV粒子には、感染性がある完全なビリオンの他に、ヌクレオカプシドを持たずテグメントタンパクのp65のみがエンベロープを被った“dense body”や、DNAを欠くカプシドがエンベロ−プが被った“noninfectious enveloped particles”の3種類が認められる。

・エンベロープの主要な糖タンパクであるgBCMVの細胞への侵入、細胞間の伝播、細胞の融合に関与し、中和抗体の標的である。

CMVのゲノム(ウイルス核酸)は、2本鎖で線状のDNAであり、235,000塩基対(235kbp)よりなり、GC含量は57.2%である。

・ヒトのCMVはヒト以外に感染しないので、ヒトはCMVの唯一のリザーバーであり、感染源である(種特異性)。ヒトの体内では各種の臓器、組織、細胞に親和性をもち感染する(向汎性)

 

CEBウイルス EBV HHV4

EBVビリオンの形態は、他のヘルペスウイルスと共通である。

EBVゲノムは172kbpG+C含量58mol%で、ゲノム末端に同一方向の反復配列、内部に4ヵ所の繰返し配列(internal repeat)を持つ。

・ウイルスゲノムの情報発現は宿主細胞によって異なり、多様な生物活性を示す。

 

DHHV-6,7

 

HHV-6

HHV-6DNAは、一部CMVDNAと相同性があり、遺伝子配列にも類似性がある。(両者ともβヘルペスウイルス亜科に属する。)

ゲノム構造はほかのヒトヘルペスウイルスと異なり、両末端に同一方向の反復配列をもつ、160kbp(G+C含量43)2本鎖DNAである。HHV-6CMVと同様チミジンキナーゼ遺伝子を持たないが、DNAポリメラーゼ遺伝子をコードしている。

ビリオンの形態は、他のヒトヘルペスウイルスと共通であるが、ヌクレオカプシドとエンベロープの間のテグメントが幅2540nmで厚く濃密である点に特徴がある。

HHV-6に分類されるウイルスは、ゲノムの制限酵素による切断パターン(遺伝的性状)、モノクローナル抗体による抗原解析(抗原性)、株化T細胞における増殖と病原性(生物学的性状)の差に基づきA及びB2群に分けられる。すなわち、U1101株に代表されるA(variant A)は、主にエイズ患者などの易感染性宿主より分離され、株化Tリンパ球で増殖する。しかし現在までその病原性は不明である。一方、突発性発疹患者から分離されるウイルスはすべてB(variant B)に属し、MT-4細胞などの限定された株化T細胞でのみ増殖する。

 

HHV-7

形態学的にはHHV-6と同様に肥厚したテグメントをもつが、ゲノムDNAに相同性がなく、抗原的にも交差しない。HHV-7は株化T細胞ではほとんど増殖しない。

 

EHHV-8

 

1994Changらは,遺伝子操作技術を用いて,エイズ患者のカポジ肉腫Kaposis sarcomaKS)の組織中にKS特異的なDNA断片を見いだし,その1つであるKS330の塩基配列γヘルペスウイルス・サイミリherpesvirus saimiriEBウイルスのカプシドおよびテグメント遺伝子と相同であることを示し,新しいへルペスウイルスとKSの関連性を示唆した.その後,このSarcomaassociated herpeslike DNA sequenceはエイズ型のKSのみならず,古典型、アフリカ型,医原性型のKSの病変組織にも検出され、KSassociated herpesvirusKSHV)あるいはhuman herpesvirus 8HHV8)とよばれ,γヘルペスウイルス亜科に属する新しいへルペスウイルスとみなされている。

 

 

 

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<感染機序について>

 

1.単純ヘルペスウイルスの性状について

 

1)安定性 細胞外ではきわめて不安定であり,紫外線(DNA),熱(タンパク)およびェーテルなどの有機溶媒(リピド)で容易に感染性を失う.血清やジメチルスルホキシドを含む培養液で−70℃以下で保存すれば感染性を維持できる.

 

2)宿主域 自然宿主はヒトであるが,宿主域は広く,実験的にはマウス,ラット,モルモット,ウサギ,発育鶏卵に感染させうる.試験管内でも多種類の細胞に感染し,ウイルスの型・株に特徴的な細胞変性効果cytopathic effectCPE)を示す。

 

3)増殖 

ウイルスが細胞へ吸着後,ただちにエンベロープと細胞質膜の融合が起こり,ウイルスは細胞質内へ侵入し,脱穀が起こりウイルスゲノムが核内へ放出される.ウイルスは,核内で増殖してヌクレオカプシドを形成し,細胞質内でテグメントを獲得し,細胞膜をエンベロープとして被って成熟する.培養細胞では,56時間のエクリプス(暗黒期)を経て,感染性ウイルスが対数的に増え,1416時間でピークに達する.

@ 吸着,侵入および脱穀

HSVはまずエンベロープ上のgCで細胞表面のプロテオグリカン(ヘパラン硫酸)に吸着し,gBgDおよびgHによりエンベロープは細胞膜と融合し,カプシドは細胞内へ侵入する.膜融合により細胞質内に侵入したヌクレオカプシドは核膜孔近傍に移動し,脱穀が起こり,核膜孔を通じてウイルスゲノムが核内に放出される.

A ウイルスゲノムの発現

HSVゲノムは,細胞のRNAポリメラーゼUで転写される.ウイルス特異タンパクの合成は,α,β,γの順に段階的に,相互依存的に起こる(cascade regulation).これらのタンパクは抗原性をもち,それぞれ前初期抗原(IEA),初期抗原(EA),および後期抗原(LA)とよばれる.

α遺伝子は5個知られており,その転写は,タンパク合成阻害剤の存在下でも起こる.αタンパクは感染後24時間でピークに達する.HSVビリオンのテグメントタンパク中のαTIFVP16)はα遺伝子にトランスに作用し,α遺伝子の転写を促進する.αタンパクはいずれも調節機能をもち,β遺伝子を活性化し,βタンパクの合成を促進する.とくに,infected cell protein 4ICP4)はその活性が強い.

β遺伝子の転写は,αタンパクの産生が先行する必要があり,DNA合成阻害剤存在下でも起こる.βタンパクは感染後57時間でピークに達し,主として核酸代謝およびウイルスゲノムの複製に関与する.β遺伝子にコードされるタンパクは,DNAポリメラーゼなどのゲノム複製に必須なものと,チミジンキナーゼthymidine kinaseTK)(厳密にはヌクレオシドキナーゼとよぶ),リボヌクレオチド・リダクターゼなどのDNA合成に関与するが細胞の酵素でも代替できるものがある.前者を欠く変異体は増殖できないが,後者を欠く変異体は増漕中の宿主細胞では増殖できる.     

γ遺伝子は,ビリオンを構成するγタンパタをコードしており,その発現にはαタンパクおよびβタンパクの産生と DNAの複製が必要である.しかし,γタンパクのなかには,gBgDおよび主要カプシドタンパクなど,感染初期および後期を通して合成されるものがある.

B ウイルスゲノムの複製

ウイルスDNAは,感染3時間後より合成が始まり912時間持続する.ビリオン内のゲノムDNAは線状であるが,感染細胞内では環状になり,ローリングサークル様式で複製される.

C ウイルス粒子の形成および放出

カプシドを構成するタンパクは,細胞質で生合成され核に移動し,核内でカプシドを形成する.ローリングサークル様式で複製したDNAはゲノム単位に切断され,カプシドにパッケージされてヌクレオカプシドが形成される.核内のヌクレオカプシドは核膜を被っていったん核膜外腔へ出た後,再び細胞質へ侵入し,細胞質内でテグメントを獲得し,ウイルス糖タンパクで修飾された細胞膜を最終的にエンベロープとして被り,空胞内へ出芽し,細胞外へ放出される.

D 宿主細胞の変化

感染により,宿主細胞の高分子合成は阻害される.感染細胞には,核内封入体形成と膜の変化がみられる.感染初期の核内封入体はDNAに富み(HE染色で青く染まる)とともにウイルス抗原を含み(免疫染色が陽性),宿主細胞のクロマチンを核周辺部に圧排して核内の大部分を占拠する.一方,感染後期の核内封入体はウイルスDNAを失い(HE染色でピンクに染まる),ウイルス抗原を含まず(免疫染色陰性),核周辺部の宿主クロマチンとの間にhaloを生ずる.

 

4) 単純ヘルペスウイルス潜伏感染と再活性化について

 HSVは神経節に潜伏感染する.HSVの増殖は潜伏感染の成立には必須ではないが,再活性化には不可欠である.神経細胞内に潜伏感染中のHSV1のゲノムDNAは,環状であり,宿主染色体に組み込まれない状態で存在する.すなわち,環状のDNAが核質内で宿主細胞のヒストンと結合してヌクレオソーム構造をとり,安定な環状エピソームとして存在する.潜伏感染中のHSVのゲノムは,α遺伝子の転写が抑制されているが,種々の刺激を誘因として再活性化されると,α遺伝子の転写が起こり,環状のDNAは増殖サイクルに入り,感染性のウイルスが産生される.

 

2.水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)の性状について

自然界ではヒトが唯一の宿主である.試験管内ではヒト,サル,ウサギ,モルモット由来の細胞で増殖し,核内封入体を形成する.しかし,このウイルスは細胞親和性が強く,感染性ウイルスははとんど培養液中に放出されないため,ウイルスの継代は感染細胞去非感染細胞を混合して行う.

 

3.サイトメガロウイルス(CMV)の性状について

試験管内では,線維芽細胞(2倍体細胞)で増殖し,増殖したウイルスは細胞外へ遊離し難く細胞から細胞に広がるので,巣状の特徴的なCPEを示す.感染細胞内には核内および細胞質内封入体が形成される.CMV網膜炎がみられ,しばしば失明する.

 

    外因感染(感染性CMVの産生)

     ↓

  骨髄の単球・顆粒球の前駆細胞や末梢リンパ球に潜伏感染

     

  同種免疫反応によるリンパ球の活性化

     ↓

  潜伏CMVの再活性化(CMVゲノムの発現)

     ↓

  内因感染(感染性のCMVの産生)

     ↓

  免疫抑制によるCMVの内因感染および体内伝播の助長

  図:移植患者におけるCMVの潜伏感染の再活性化の機序

 

1)サイトメガロウイルス(CMV)の着伏感染と再活性化について

向汎性ウイルスであるCMVは,種々の臓器に潜伏感染し,終生体内に存続する.とりわけCMVは骨髄あるいは胎生肝由来の顆粒球・単球前駆細胞に潜伏感染を起こしうることがわかった.その細胞はCD14CD15CD33陽性であり,CMVの増殖はα遺伝子の転写段階で抑制されているが,共生培養を行えば感染性のCMVが産生される.潜伏感染(ウイルスゲノムは存在するが感染性のウイルスは産生されない状態)を起こしたCMVは,種々の誘因で再活性化(潜伏したウイルスゲノムからの感染性ウイルスの産生)して内因感染を起こす.CMVの再活性化は移植,AIDS,妊娠,腫瘍,免疫抑制療法などの場合に起こりやすい.すなわち,潜伏中のCMVゲノムの再活性化は同種免疫反応と免疫抑制の両方あるいはどちらか一方がみられる場合に起こりやすい.移植患者においては両者が併存しており,CMVの再活性化が起こりやすい条件が揃っている.日本人の成人の8090%がすでに感染して抗体陽性であり,体内のどこかにCMVのゲノムをもっている.このような抗体陽性のドナー(D+)から臓器を介して抗体陰性のレシピエント(R一)あるいは抗体陽性のレシピエント(R+)へ外因感染が起こるが,その際の感染源の本体は臓器の細胞内あるいは血液の白血球内に潜伏するCMVゲノムであり,再活性化したCMVがレシピエントに感染する.一方,抗体陽性のレシピエント(R+)においては,抗体陰煙のドナー(D−)からの移植に際してもCM寸感染が起こるが,これは自らの体内に潜伏していたCMVの再活性化による.移植に際して起こるCMVの再活性化には上の図のような機序が考えられる.

 

4.EBウイルスの性状について

1EBウイルスの宿主細胞と感染性

EBウイルスは,唾液を介して咽頭粘膜上皮細胞に感染し増殖する.さらに,Bリンパ球に潜伏感染し,Bリンパ球を不死化する.試験管内では,霊長類のBリンパ球に潜伏感染し,Bリンパ球を不死化し,細胞は無限に増殖する.EBVの感染は,エンベロープの糖タンパクgp350220 が細胞表面の補体Cd3レセプター(CD21)と結合することにより成立する.

@ 増 殖

EBVは,咽頭粘膜上皮細胞(許容細胞)においては増殖するが,B細胞(非許容細胞)においては基本的に潜伏感染を起こす.EBVB細胞に感染すると,B細胞は芽球化し,分裂を開始しポリクローナルに無限に増殖し,不死化したリンパ芽球様細胞株(LCL)が得られる.樹立されたリンパ芽球の複製にかかわる.EBNA2遺伝子およびLMP1遺伝子は試験管内でRat1細胞をトランスフォームし,癌化に関与していると考えられている.事実,EBNA2遺伝子に欠損のあるP3HR1株は細胞をトランスフォームすることができない.EBNA2は細胞の遺伝子にトランスに働きCD23の発現を促進する.遊離した可溶性CD23Bリンパ球増殖活性をもっている.

EBV関連腫瘍やEBVトランスホーム細胞における潜在EBV関連遺伝子の発現はさまざまであり,3つのパターン(latancyI〜V)に分けられる).細胞内に侵入したウイルスゲノムは線状から環状構造に変化し,核内にエピソームとして存在する(一部は細胞DNAに組み込まれている場合もある).EBNAlの結合したウイルスゲノムは,細胞のDNAポリメラーゼを利用して細胞増殖S期の早期に複製し,細胞分裂により娘細胞へ伝達される.

 

5.ヒトヘルペスウイルス67の性状について

核内で産生されたヌクレオカプシドは内側核膜部でエンベロープをかぶるが,この時点ではテグメントをもたない.この粒子のエンベロープは外側核膜と融合し,ヌクレオカプシドは細胞質内に送り込まれる.ヌクレオカプシドは細胞質内でテグメントを獲得し,空胞部で再びエンベロープをかぶり,空胞内へ出芽し,はじめて成熟したビリオンとなる.

HHV6は急性期の患者のCD4陽性Tリンパ球より分離され,試験管内でもCD4陽性Tリンパ球に感染し増殖する.感染丁細胞は風船状の巨細胞を形成する(CPE).このウイルスは急性期にはCD4陽性丁細胞に感染し増殖するが,その時期以外はマクロフアージに潜伏感染する.

 

HHV7は,形態学的にはHHV6と同様に肥厚したテグメントをもつが,ゲノムDNAに相同性がなく,抗原的にも交差しない.HHV7は株化T細胞ではほとんど増殖しない. 

 

 

 

 

6.ヒトヘルペスウイルス8について

最近、HHV8が潜伏感染したBリンパ腫由来の細胞株BCBL1をホルボールエステル(TPA)で処理することによって,HHV-8を増殖させる方法が開発され,HHV-8は電子顧微鏡下に初めてその姿を現した.内皮細胞,上皮細胞、Bリンパ球に感染して腫瘍化し,それぞれKS,有刺細胞癌,B細胞リンパ腫を生じる可能性が想定されている。カポジ肉腫は男性同性愛者や両性愛者のエイズ患者の約30%に発生し血友病のエイズ愚者より著しく高いこと,精液中に検出されることから,少なくとも性的伝播が感染経路のひとつと見なされている。HHV-8感染の診断は病理組織のDNAの中にカポジ肉腫に特異的な塩基配列をPCRにより検出することによって行う.

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病原性について

 

1.単純ヘルペスウイルスherpes simplex virus

◎病原性

1型(HSV-1);飛沫および接触により,主に口腔粘膜に感染する.初感染の大部分は不顕性感染であるが、一部は顕性感染を起こし,おもに口内炎,二次的に角膜炎などをきたす.唾液を介して性器に感染し性器ヘルペスを起こす場合がある.事実,日本人女性の性器ヘルペスの半数以上がHSV-1によって起こっている.感染した女性は,感染の機会があった後37日の潜伏期をおいて,前駆症状として局所にかゆみや痛みがあり,やがて大・小陰唇,膣粘膜に多数の水疱とびらんが出現し,激痛を伴い,排尿障害や歩行困難をきたす事もある.治癒には23週間を要する.初感染後は,顕性,不顕性を問わず,中和抗体が産生されるにもかかわらず,ウイルスは三叉神経節に潜伏感染し,終生体内に存続する潜伏感染したウイルスは赤外線、過労、月経、発熱、外傷、精神的ストレス、免疫抑制剤の投与などを誘因として再活性化し,経神経的に口唇部の皮膚・粘膜に達し,ほぼ同一部位にヘルペスを生じ,しばしば反復発症する.これを回帰ヘルペスと呼び,症状は一般に初感染時より軽いが,易感染性宿主では肺炎を始めとする全身感染を起こす事がある.

2型(HSV-2);初感染は、周産期の新生児への感染を除くと,思春期以降の性的接触で起こる.2型は,仙骨神経節に潜伏感染し,1型と同様に再活性化し,性器ヘルペスを繰り返す.

 

<単純ヘルペスウイルス1型および2型の個体レベルでの比較>

 

1

2

初感染(外因感染)の部位

上半身(口腔,口唇)および下半身(性器)

下半身(性器)まれに上半身(口腔)

感染経路

生殖器以外による飛沫および接触感染

生殖器(性交,出産)による接触感染

潜伏感染部位

三叉神経節

仙骨神経節

回帰感染(内因感染)の部位

上半身(口唇)

下半身(性器)

 

 

2.水痘・帯状疱疹ウイルスvaricella-zoster virus(VZV)

 

◎病原性

水痘(顕性初感染);VZVは,おもに上気道粘膜に感染し(0日)粘膜や局所リンパ節で増殖し,第1次ウイルス血症を起こす(46日).肝臓,脾臓などで増殖下VZVはリンパ球に感染している形で第2次ウィルス血症を起こし(発症前5日から発症後1日まで),真皮から表皮に達し,全身に両側生の水疱を形成する14日).水疱内には多くの感染性ウイルスが存在する.

帯状疱疹(回帰性発症);水疱発症時の水疱内ウイルスは,知覚神経にそって後根神経節に達し,サテライト細胞に潜伏感染する.加齢や医原的理由などで細胞性免疫が低下すると,ウイルスは再活性化し,その神経支配領域の皮膚に,一側生の,疼痛を伴う帯状の水疱を形成し,帯状疱疹を起こす.白血病やリンパ腫などの悪性疾患患者では,帯状ヘルペスになりやすく,とくに細胞性免疫の低下が著しい場合は,ウイルス血症を起こし,水疱は特定の神経支配領域の皮膚に限局せず,全身化・重症化する.

VZV感染の回帰発症である帯状疱疹とHSV感染の回帰発症である回帰性ヘルペスを比較すると,両者の間には種々の臨床ウイルス学的な差異が認められる.

 

HSVおよびVZVよる回帰感染・回帰発症の比較>

  

HSV(回帰性ヘルペス)

VZV(帯状疱疹)

潜伏感染細胞

神経細胞neuron

非神経細胞satellite cell

紫外線による再活性化の誘発

あり

なし

無症状でのウィルスの排出

(回帰感染)

あり

なし

回帰発症の頻度と可能性

終生反復

通常生涯に一度

抗体陽性者における回帰発症の発生率

20〜50%

10〜20%

病変〈水疱〉の分布

巣状:密集

皮節に一致

随伴症状

軽度の知覚異常

激痛

免疫抑制から発症までの期間

1〜4週

2〜6ヶ月

 

 

3.サイトメガロウイルスcytomegalovirus(CMV)

 

◎病原性

初感染は,胎盤,産道、および母乳を介する垂直伝播,および唾液,尿,精液,血液,移植臓器などを介する水平伝播によって起こり,その大部分は不顕性感染に終わる.

未感染の妊婦(抗体陰性)が初感染を受けるとウイルス血症が起こり,経胎盤的に胎児に感染し、先天性巨細胞封入体病をきたす場合がある.患児は,低出生体重small-for-dateであり,肝脾腫,黄疸,出血班,貧血などがみられるほか,中枢神経などが侵され,小頭症,脳内石灰化,網膜炎などを認め,後に知能発育障害をきたす.このような患児は,IgM抗体陽性であり,出生直後より尿中にCMVを排出しつづける.

一方,既感染の妊婦(抗体陽性)では,潜伏CMVが再活性化し,まれに経胎盤感染が起こすが,移行抗体があるので新生児はほとんど発症しない.また,CMVは経産道および経母乳垂直感染を起こすが,移行抗体があるので,新生児はまず発症しない.このような周産期に感染した児は,出生直後はIgM抗体陰性であり,出生約一ヶ月後より尿中にCMVを排出し始める.

後天的には,自然感染および臓器移植や新鮮血の輸入で医原的感染によりCMV単核症を起こす場合がある.EBウイルスによる伝染性単核症と同様に発熱,リンパ節腫脹,異型リンパ球増加などがみられるが,咽頭炎を欠き,Paul-Bunnell反応陰性の点が異なる.急性期には,CD4CD8比が低下し,免疫抑制が見られる.いわゆる輸血後症候群〈発熱,脾腫,異型リンパ球増多〉は本症とみなされ,CMVは新鮮血中の白血球に由来する.

初感染後,ウイルスは体内に潜伏し,潜伏CMVはエイズ,臓器移植,腫瘍,自己免疫疾患などの易感染性宿主において再活性化して内因感染を起こし、間質性肺炎,網膜炎,消化管の腫瘍・出血,肝炎などを含む日和見感染を引き起こす.特にエイズ患者では,高率にCMV網膜炎が見られ,しばしば失明する.

 

 

4.EBウイルスEpstein-Barr virus(EBV)

 

◎病原性

従来,伝染性単核症がEBV感染症,Burkittリンパ腫および上咽頭癌がEBV関連疾患として知られていた.しかし,近年の臓器移植,エイズなどの免疫不完全患者の増大,あるいは分子生物学的発展を契機として,その関連疾患の範囲がひろがっている.

@伝染性単核症infectious mononucleosis

幼少期EBV初感染は大半が不顕性感染に終わるが,思春期の初感染では約半数に伝染性単核症が起こる.発熱,リンパ節腫脹,異型リンパ球を主徴とし、5090%がPaul-Bunnell反応陽性である.

急性期の血中にEBNA陽性,LYDMA陽性で分裂像を示すBリンパ球〈リンパ芽球〉が多数出現する.同時にそれに対して細胞傷害性を示すTリンパ球が出現し,EBVによりトランフォームしたBリンパ球を速やかに排除する.この細胞傷害性Tリンパ球が異型リンパ球である.

A致死的伝染性単核症fatal infectious mononucleosis

1975Purtilloらは,特殊な家系の男児に集積する伴性劣性遺伝リンパ球増多症候群X-linked lymphoproliferative syndrome(XLP)(家系にちなみDuncan病とも呼ばれる)を報告した.この疾患の患児(男子)では,EBV感染と共にVCAおよびEAに対する抗体産生は起こるが,EBNA抗体の産生がなく,感染細胞の排除に働くキラーT細胞が誘導されない.したがって,増殖した感染細胞が各臓器に浸潤し,致死的伝染性単核症を起こす.防御免疫能の欠損はEBV特異的である.致死的伝染性単核症の半数は,家系的集積以外の散発例であり,女児にも見られる.

BBurkitt(バーキット)リンパ腫Burkitt lymphoma(BL)

高温多湿の赤道アフリカに集中し,6〜8歳をピークに好発する顔部の悪性リンパ腫である.病理組織学的には,リンパ芽球とその間に散在する組織球が形成する特異なstarry sky像を特徴とする.

Burkittリンパ腫(BL)由来のBL細胞には,第814染色体相互転座を中心とする特定染色体の異常,癌遺伝子c-mycの活性上昇,ヌードマウスにおける造腫瘍性が認められる.

EBVが世界中に広く分布するにもかかわらず,Burkittリンパ腫が特定地域に好発する背景には,発癌に関与する補助因子が考えられる.Burkittリンパ腫は、EBV感染にマラリア感染や周囲に繁茂する植物ミドリサンゴEuphorbia tirucalliが産生する発癌促進物質(ホルボールエステル)の作用などの補助因子が加わって発症すると考えられている.

C上咽頭癌nasopharyngeal carcinoma(NPC)

中国東南部を出身地とする中国人成人〈男子に多い〉の後鼻腔に好発するリンパ上皮腫lymphoepitheliomaである.患者はVCAに対する血中IgA抗体が高値を示す.上皮性腫瘍であるが,咽頭上皮細胞にもCd3レセプターが存在することが明らかとなっている上咽頭癌は、遺伝的背景(HLA)や食生活の特徴(塩蔵食品中のニトロソアミン)が発癌に関与すると考えられている.

D日和見リンパ腫opportunistic lymphoma

Ataxia telangiectasiaWiscott-Aldrich症候群などの原発性免疫不全症候群,エイズ患者,臓器移植に伴う免疫抑制剤投与中の患者などで,EBV陽性のB細胞リンパ腫が発生し,日和見リンパ腫と呼ばれる.特にエイズ患者の約25%で発生し、リンパ組織以外の脳、皮膚、副腎、肺、肝などの臓器に発生することが多い.また,移植患者にはしばしばposttransplant lymphoproliferative disease(PLD)として合併する.

E慢性活動性EBウィルス感染症chronic active EBV infection

EBV感染以外の感染および先行する免疫異常がなく,伝染性単核症様症状が1年以上にわたって続く.症状は多彩であり、重症例では肺炎、肝炎、好中球減少、血小板減少や好酸球増加などをきたし,死亡する場合もある.また,EBV陽性T細胞性腫瘍を伴う場合もある.VCAおよびEAに対する抗体は高値を示すが,EBNA抗体は低値もしくは欠如する.

Fその他のEBV関連疾患

リンパ上皮腫型の唾液腺癌,胸腺癌,肺がん,胃癌およびホジキン病の中にEBV陽性のものがある。とくにわがくにでは、やく10%の胃癌の癌細胞にEBVDNARNA,抗原が証明されている.

 

 

5.ヒトヘルペスウィルス6および7 human herpesvirus 6(HHV-6),human herpesvirus 7(HHV-7)

 

◎病原性

HHV-6は唾液を介して乳幼児に感染し,乳幼児の第6番目の発疹性疾患である突発性発疹を起こす.おもに1歳以下の乳児が罹患し,突然熱発し高温(3940℃)が34日持続した後,分利的に解熱するが,それと同時に体幹を中心に紅班性の小発疹を生じ,数日後には色素沈着を残すことなく消退してゆく.ほとんどの患児は良性に経過するが,まれに神経症状を呈したり,致死的肝炎を起こす場合がある.

成人では重篤な伝染病単核症様疾患を起こす場合があり,発熱,リンパ節腫脹,全身性発疹(出血を伴う),肝炎をきたし,異型リンパ球が出現する.異型リンパ球はCD4陽性Tリンパ球とCD8陽性Tリンパ球よりなり,CD4陽性Tリンパ球にHHV-6が感染している.また発疹部位にはCD4陽性Tリンパ球およびCD8陽性Tリンパ球が著しく浸潤し,HHV-6抗原が認められる.

エイズ,臓器移植,血液の悪性疾患などの患者よりA群およびB群のウイルスが分離されるが,病原的な意義は不明である.

HHV-7は既感染健康人の唾液から高率に分離される.このHHV-7も乳幼児に突発性発疹を起こす.しかしHHV-7の感染はHHV-6より遅く起こる.したがって,同一乳幼児がHHV-6およびHHV-7により突発性発疹に2回罹患する場合がある.

<帯状発疹>

<突発性発疹症>

<単純性発疹>

参照文献

戸田新細菌学 (南山堂)

カラーフォト皮膚病 (金原出版)

 

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検査・診断法について

T.単純ヘルペスウイルスHSV-1,2)―――――――――――――――HHV-1,2

→ 病原診断…水疱内容についての細胞診、FITC標識抗HSVマウスモノクローナル抗体での免疫染色、ウイルス分離、PCR法によるDNA検出

→ 血清診断…ELISAおよびCF test 、NT testによる抗体価測定。RIA、蛍光抗体法も用いられる。

 

 

U.水疱‐帯状ヘルペスウイルス(VZV)――――――――――――――――HHV-3

→ 病原診断…FITC標識抗HSVマウスモノクローナル抗体での免疫染色によるVZV抗原の証明が最も迅速で確実。具体的には、水疱内容をヒト胎児肺線維芽細胞に接種してウイルシを分離し、FITC標識モノクローナル抗体でVZVと同定するのが最も確実な診断法。他に、PCR法によるVZVのDNA増幅検出がある。

→ 血清診断…CF testおよびELISA、NT testによる抗体の検出と測定、蛍光抗体法によるウイルス抗原の検出がある。

CF test…CF抗体は発疹出現1週後より出現し、その後漸減して約1年後には陰転する。急性期と回復期のペア血清について4倍以上のCF抗体価上昇が見られるとVZV感染と診断しうる。(CF抗体はHSVと交差反応があるので注意が必要。)

ELISA …IgG抗体とIgM抗体の分別測定が可能。IgM抗体は最近起こったVZV感染の指標となりうるが、水疱のときだけでなく帯状ヘルペスのときにも陽性となる。IgG抗体は長期間にわたって検出され、帯状ヘルペスにおいて高値を示す。

 

 

V.サイトメガロウイルス(CMV)―――――――――――――――――――HHV-5

→ 病原診断

1.ウイルスの分離は通常、ヒト2倍体細胞(線維芽細胞)に接種してCMVに特徴的な光を屈折する大型の細胞(巨細胞)による巣状の細胞変性効果(CPE)の出現を経日的に観察する。これは最も確実ではあるが、1〜4週間の培養を要する。そこで、検体接種1〜2日目の感染細胞をモノクローナル抗体を用いて免疫染色して迅速同定を行う。

検体としては、肺炎の際の気管支肺胞洗浄液など病変部由来のものが望ましい。

 

2.気管支洗浄液、尿、咽頭や子宮頚管ぬぐい液などの検体中にモノクローナル抗体を用いて直接CMV抗原陽性細胞を検出する方法

 

3.核内にCMVテグメントのp65抗原をとりこんだ多形核白血球をモノクローナル抗体を用いた免疫染色によって検出する(CMV抗原血症)。この抗原血症はCMV感染の発症と並行してor先行して陽性となり、陽性白血球数は臨床症状と連動し、抗ウイルス療法による症状の改善とともに陰転する。よって、これはCMV感染症の迅速診断、発症予知、治療の指標として有効である。

 

4.検体中にPCR法によってCMVのDNAを増幅検出する。とくに血漿or血清中にCMVのDNAを証明できればCMVの迅速診断が可能である。(しかし、潜伏中CMVのDNAも疾患と関係なく検出されるので慎重に解釈する必要がある。)

 

→ 血清診断…CF test やELISA、NT testによって抗体陽転or IgMが見られれば初感染とみなしうる。しかし、成人の場合、抗体陽性という検査成績は感染の事実を示すに過ぎず(日本人成人の80〜90%が抗体陽性である)、抗体の陽転及びIgM抗体陽性のときのみ臨床的に重要性がある。

           

→ 病理組織診断…気管支肺胞洗浄液、各臓器の上皮組織、尿・胃液などの剥離細胞の中に、とくちょうある核内封入体を持つ細胞(owl’s eye cell)を検出する。

 

 

W.EBウイルス(EBV)―――――――――――――――――――――――HHV-4

→ 病原診断

1.ウイルス分離…うがい液を臍帯血白血球に接種、もしくは末梢白血球や潰瘍組織を培養してトランスフォーム細胞(形質転換細胞)を樹立する。

 

2.核酸診断…潰瘍組織ではEBV感染細胞の核内に局在するEBER(EBV encoded small RNAs)を標的としたin situ hybridizationを行う。EBERの機能は不明であるが、RNAポリメラーゼにより転写され、細胞のタンパクを複合体を形成し、核内に局在するので標的として病理組織診断に利用される。

 

→ 血清診断…EBV関連抗原(カプシド抗原;VCA→ウイルス粒子の構造抗原、初期抗原;EA、核抗原;EBNA→補体結合性の抗原)に対する抗体価を測定する。

 

 

X.HHV-6,7

→ 病原診断…末梢血単球をIL-2及びPHA存在下で1〜2週間培養し、風船様の細胞の出現を観察する。HHV-6,7は急性期の患者のCD4陽性Tリンパ球(ヘルパーT細胞)より分離され、試験管内でも感染・増殖できる。分離ウイルス抗HHV-6、抗HHV-7マウスモノクローナル抗体を用いる間接蛍光抗体法により同定する。

 もしくは、患者の末梢血、咽頭ぬぐい液、唾液、髄液などを検体として、HHV-6およびHHV-7に特異的なプライマーを用い,PCR法により核酸診断を行う。

 

→ 血清診断…HHV-6およびHHV-7を感染させた臍帯血単核球あるいは株化細胞を抗原として、急性期および回復期のペア血清を対象に間接蛍光抗体法により抗体価を測定する。

ペア血清でHHV-6,7に対する抗体陽転が見られたら、HHV-6もしくはHHV-7が起因ウイルスであると判定する。

 

 

Y.HHV-8

→病理組織のDNAの中にカポジ肉腫に特異的な塩基配列をPCR法により検出することによって行われる。

 

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検査方法の説明

[病原診断]

@水疱内容についての細胞診(Tzanck test)

水疱蓋内面あるいは水疱底部の擦過標本についてGiemsa染色を行い、巨細胞や核内封入体を検鏡する。(ただし、これらの所見はHSV-1,2に特有ではなく、水痘‐帯状ヘルペスウイルスとも共通である。)

 

Aモノクローナル抗体による免疫染色

Tzanckスメアについて、市販のFITC標識抗HSVマウスモノクローナル抗体で免疫染色を行うと、HSVの同定と同時にHSV-1とHSV-2の型別ができ、迅速に確定診断を下せる。(しかし、膿疱や痂皮、粘膜病変の場合は抗原陽性率が低い。また、まれにHSV-1の糖タンパク欠損変異株にはこのモノクローナル抗体は検出されない。)

 

Bウイルスの分離

最も確実な方法ではあるが、培養に長い時間を要する。検体をVero細胞などに接種し、細胞変性効果(CPE)を指標に経日的に観察し、上記の標識抗体を用いてHSV-1,2の同定を行う。分離率は、新しい水疱ほど高い。

 

CPCR法(ポリメラーゼ連鎖反応)によるDNA増幅検出

ウイルス分離が期待できない古い水疱(痂皮)についても可能で、特にHSV脳炎の際の髄液中のDNA検索に有効。最近では型特異的なプライマーが開発され、型別が可能になった。

 

 

[血清診断]

@中和試験(NT test)

ウイルスや毒素が抗原となると、これらに対する抗体が結合し、ウイルスの増殖が阻止されたり毒素の活性が中和されたりする。これを中和反応という。これにあずかる抗体を、ウイルスに対するものでは中和抗体、毒素に対するものでは抗毒素という。

NT testはウイルスと中和抗体を反応させた後、培養細胞に接種する。もし中和反応が起こっているなら、ウイルスは増殖しない。したがって一定時間後の増殖したウイルスの量を測定することにより中和抗体価を算出する。一般に中和抗体の感度は高く、特異性も高いので、ウイルスの血清型を決定するのに用いられる。

 

A補体結合試験(CF test)

補体は、抗原抗体複合体に結合する性質がある。抗原と抗体を反応させ、次いで補体を加えると抗原抗体複合体に補体が結合する。残った補体量を第2のヒツジ赤血球を用いた反応系で定量する。すなわち、ヒツジ赤血球(SRBC)とそれに対する抗体(anti-SRBC)の複合体に補体を結合させる。補体が活性化されると、SRBCは溶血する。その溶血度(ヘモグロビン濃度)を測定することにより、残った補体量が測定できるので、最初に用いた補体量から差し引いて、第1の反応系で消費された補体量が推定できる。これによりCF抗体価を算出する。

CF抗体は感度が低く、特異性もあまりない。従って、群特異的な抗原を検出するのに適している。

 

B蛍光抗体法(FAT)

抗体に蛍光色素を標識し、抗原と反応させる。抗原に結合した抗体の存在が蛍光顕微鏡下で観察される。蛍光色素で標識した抗体と抗原を反応させる直接法と、抗原と抗体を反応させ、さらに蛍光色素を標識した抗γグロブリン抗体を反応させる間接法とがある。直接法は間接法より特異性は高いが、感度は低い。

 

Cラジオイムアッセイ(RIA)

1つめの方法は、検体と既知の抗体を反応させた後、放射性同位元素(アイソトープ)を標識した既知の抗原と反応させ、さらに抗γグロブリン抗体を反応させ、沈殿物中の放射活性を測定する方法である。

もし、検体中に検出しようとする抗原が多量に含まれているなら、既知抗体と反応するので、同位元素標識抗原と既知抗体は反応しなくなる。従って、放射活性は低くなる。逆に、検体中に抗原が少ない場合は多くの同位元素標識既知抗原と抗体が反応するので沈殿物中の放射活性は高くなる。

このように放射活性を測定することにより、抗原が定量できる。

もう1つの方法は固相法と呼ばれるもので、ポリスチレンあるいはガラスのビーズに既知の抗体を結合しておき、検体と反応させ、次に同位元素を標識した抗体と反応させる方法である。

もし、抗体中に検出すべき抗原があるなら、第二の標識抗体が結合するので、放射活性を測定することにより抗原が定量できる。この場合、抗原量と放射活性は比例する。感度は非常に高く、特異性も高い。

抗体検出の場合は、二重抗体法では最初に検体と放射性同位元素を標識した抗原とを反応させる。第二抗体以下は同じである。

 

D酵素抗体法(ELISA)

RIA固相法とほぼ同じ方法であるが、アイソトープの代わりに酵素を用いる。酵素反応により酵素量を定量し、抗原量を推定することができる。

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参考文献

戸田新細菌学(南山堂)

微生物学250ポイント(金芳堂)

 

 

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治療法について>

・根絶は無理なので対症療法が中心となる。(ウイルスの特徴参照。)

治療にはアシクロビル(商:ゾビラックス)という薬剤が第一選択薬である。アシクロビルの経口投与は、800mgを1日に3回がHSV関連症状の治療に認可されており、重症度と症状の持続期間を軽減させる。

・点滴静注、軟膏、内服があり、病状に応じて使用する。

・たいていは治療を開始してから1週間ほどで治癒する。

・ファムシクロビル(Famciclovir)とヴァラシクロビル(Valaciclovir)も単純ヘルペス感染症の治療に有効であることがわかっている。しかし、両剤ともアシクロビルより優れているとは示されていない。

 

◎アシクロビル耐性の単純ヘルペス

アシクロビル耐性の単純ヘルペスの発生が長期間のアシクロビル療法(1〜5ヶ月)を受けているHIV感染者で発生することがよく知られている。アシクロビル耐性の HSV感染症の治療としてはフォスカネットがアメリカでは唯一の薬剤であり、この目的でしばしば使用されている。医薬品食品局(FDA)はフォスカネットを免疫不全患者におけるアシクロビル耐性の単純ヘルペス感染症の治療として認可している。Safrin らの最近の報告ではフォスカネット耐性のHSV感染症が増加しているとみられている (1994)

 

Erlichらはアシクロビル耐性のHSV-2感染症をもっている4人のエイズ患者にフォスカネット(60mg/kg8時間ごとに静注)1250日間治療した。臨床的に顕著な改善を見せ、病変部はきれいになり、粘膜からHSVがなくなったことが観察された。

Tanらはアシクロビル耐性のHSVの患者6人をフォスカネットで治療した。病変の有意な、あるいは完全治癒が14日後には全員でみられた。フォスカネットの維持療法では10週間まで再発を抑制した。再発した場合もフォスカネットの2回目の導入療法で治療に成功した。特別な腎臓や神経毒性は見られなかった。1人の患者ではペニスの潰瘍を生じた。

 

アシクロビル耐性粘膜皮膚HSV感染症に対する無作為の多施設治験(ACTG 095)ではフォスカネットがヴィダラビン(Ara-A)よりも優れていた(Safrub)8人がフォスカネット治療(40mg/kgを1日3回静注)を受け、6人がヴィダラビン治療(15mg/kg を連日静注)を受けた。病変の縮小と治癒はフォスカネット群で1024日後に得られたが、ヴィダラビン群では皆無であった。治癒した全員の患者でアシクロビル耐性 HSVの再発がみられ、再発までの中央期間はフォスカネット中止後42.5日であった。

 

Hardyらは最近、アシクロビル耐性単純ヘルペスの患者20人を対象にしたフォスカネットクリームの局所療法のオープンラベル研究を完了した。病変が50%、100%縮小するまでの期間は22日と44日であった。最初に疼痛があった15人の患者では11人が痛みがなくなり、2人が半分以下になった。疼痛がなかった5人の患者では、2人が痛みがない状態を続け、3人に痛みが生じた。副作用としては6人の患者で皮膚潰瘍が発生し、4人で発熱が見られた。

 

Kesslerらはアシクロビル耐性の慢性粘膜皮膚HSV感染症のエイズ患者26人に対し、トリフルリディン(TFT)の局所療法をオープンラベル研究を実施した(ACTG 172)。9人の患者の中間成績では7人が効果を示した。病変が完治したのは反応が見られた7人中5人(治癒までの中央期間は32)で、2人は部分的な反応であった。毒性は見られなかった。Weaverらはアシクロビル耐性HSVのエイズ患者2人にTFT溶液を使った局所療法を実施した。TFTは1日に3回塗布し、全ての病変が11日から34日までに完治した。

 

Lalezariらは最近、アシクロビル耐性単純ヘルペスの治療に、シドフォビル (cidofovir; HPMPC)ゲル剤の局所療法を、無作為化偽薬対照の二重盲検法の成績を報告している。全部で30人の患者が無作為に2種類(1%か0.3%の)HPMPCゲル剤か偽薬を投与された。0.3%群11人中3人と、1%群9人中3人が15日の時点で完全治癒を示した。しかしながら統計学的には有意でなかった。

 

帯状ヘルペスあるいは単純ヘルペスになったHIV陽性の12歳未満の小児を対象に、ヴァラシクロビル(Valacyclovir)の薬物動態、安全性、耐容性を評価する第1相治験(ACTG 253)が現在進行中である。

 

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現状について

ヘルペスウイルスの疫学

近年一般的にヘルペスウイルスは初感染の年齢が成人層に寄っているので、一般の抗体保有率は、年齢があがるほど高い。これは1型に対する抗体であるが、2型抗体の分布は1型の交差反応に妨げられるのでまだ適確には分かっていない。おそらく1型より遅れて、性交期間以降に上昇してくると思われる。

常時抗体保有者すなわちウイルスの潜伏感染中のヒトは無症状のままウイルスを排出することが多い。初感染で口内炎にかかった小児はその後半年から2年の間無症状でも20%は唾液にウイルスを排出する。成人でも回帰性ヘルペスの有無に関係なくしばしば唾液に排泄されるし、同様なことは陰部感染にも起こりうる。したがって感染源はいたるところにある訳である。

2型は一般に陰部感染の主役のように言われているが、女性の場合1型の感染も多く、1型のほうが急性の重症は多い。男性性器のヘルペス症はほとんど全部2型であり、これが性交で女性に伝染するとき、女性に1型の既往暦があれば軽症ですむということらしい。

2型の女性陰部感染は潜伏感染を起こしやすいが、これが子宮ガンの発生といかなる関係にあるかまだ決定的な結論は出ていない。

 

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