FFIはプリオン蛋白の変異の一つである。

 

常染色体優性障害である、FFIは進行性の頑固な不眠と視床核に選択的にニューロンの変性が起るのが特徴的である。

 

プリオン蛋白遺伝子のコドン178番のアミノ酸が、アスパラギン酸からアスパラギンに置き換わっていること、同時に129番遺伝子由来のアミノ酸がメチオニンからバリンに変わっていることも条件である。この129番の同じ変異がCJDでも起こる。(しかし、129番遺伝子単独の変異ではFFIにはならない。むしろ、nv-CJDのような感染性プリオン病には罹りにくくなるらしいことがわかっている。)

<臨床的特徴>

視床は神経系の広範な変性過程に影響を及ぼす。視床に選択的に起こる限定的な遺伝性変性疾患が、Lugaresi等(1986)によって初めて記述された。彼らは一つの事例について述べている。

 

53歳の男性。頑固な不眠と交感神経興奮状態(発汗、発熱、縮瞳、括約筋障害、頻脈)の症状が見られた。

夢幻様状態、構語障害, 振戦、ミオクローヌスなどの症状が引き続いて現れ、9ヶ月後には昏睡、死亡した。

彼と二人の姉妹には3世代にもわたる、たくさんの親戚がいた。彼らは同じような病気で死んでいた。

彼の二人の姉妹と、多くの親戚が同様の病で死亡していた。

姉妹のうち一人と両親の2つの脳について病理的研究を行ったところ、深刻なニューロンの変性が見られた。それに付随して、アストロサイトーシスが前核 や背内側核の視床核に選択的に反応しているのが見られたが、血管障害や炎症性海綿体化の変化はみられなかった。

Parchi(1995)等はFFI患者の9例の検死報告について述べている。灰白質の中からプリオン蛋白を分解する酵素は発見されたが、末梢臓器の白質の中からは見つからなかった。

一般的に、組織病理の変化の度合いは異常蛋白量と関連性がある。

しかしながら、背側正中視床核には深刻なニューロンの欠損と星状膠細胞(astrogliosis)とが、異常なプリオン蛋白の相対的に中等度の量と関連して見られた。この領域が高度の侵されやすい部位であることを示唆している。

 

Medori (1990)等の報告。

同様な症例を文献や神経学者や神経病理学者にわたり徹底的に調査したにもかかわらず、たった一つしか付加的な症例が見つからなかった。それは、同じ家系のメンバーで、イタリアからベルギーとフランスへ移住した家族の中からの四名と、イタリアに残っている家系からの一名であった。

 

Harder(1999)等はFFIのドイツの大家族を示した。

プリオン蛋白遺伝子の分子遺伝的分析によって、調査した感染患者7人全員において、129番がメチオニンとなっているD178Nの変異が分離された。著者は記している。臨床的に狭い視野ではFFIの診断の確立は困難である。広い視野にたって行うべきだと強調している。

また、この疾病の発病年齢と129番コドンのM/V多形性の状態との間で、以前報告されたような関連性は確認できなかった。

 

<遺伝的性質>〜発病年齢、期間等〜

Manetto等(1992)

5つの新しい事例において、臨床的そして神経病理的発見とともに、系図も示した。

男性も女性も、常染色体優性遺伝が同じパターンで感染していた。

発病年齢は様々で、37歳から61歳の間にあった。進行は7〜25ヶ月の範囲で起こり、平均すると13ヶ月であった。

 

<病気の発生>

Lugaresi等(1986)による研究。

病理的変化がクロイツフェルトヤコブ病の視床において判別された。視床以外の部分にも、皮質の海面体化と神経膠症とが見られた。

許される範囲内での病理変化の明らかな位置づけは、腫瘍と血管性障害の症例において、可能というより、むしろ正確な臨床的病理であった。

これらの相関関係は、前側と背内側の視床が睡眠、自律神経機能、神経内分泌概日リズムを興奮させ統合させる役割を持っているということを示していた。

著者は以下のように結論づけている。

 

Little等による家系の報告(1986)は、おそらく同じ障害を持っているだろう。何故なら、遺伝パターン、病理変化、兆候、症状が同じであるからだ。

 

立石等(1995)

マウスでFFIを遺伝させることに成功した。

 

このようにして、FFIは大脳のアミロイドーシスのグループに位置づけられるようになった。

FFIの病理発生についての有用な情報は、Mastrianni等による散発性致死性不眠症の記述(1999)と、Parchi(1999)等によって与えられた。その情報は、GambettiParchi等が概説している。 (1999)

 

Mastrianni(1999)

44歳男性。彼は、不眠症、下痢、運動失調に引き続いて、幻覚とミオクローヌスによって命に関わるような16ヶ月間が進行していた。

組織病理検査によると、FFIと識別不可能である病変を示していた。脳において、プリオン蛋白(PrP(Sc))の病理アイソフォームの量、分布、分子量、が、FFIのそれらと類似していたのである。

 

Mastrianni(1999)

それらの患者は散発性致死性不眠症であったと論じている。

この結論はParchi(1999)のよるこの様な5つの記述によって支持されている。

 

Mastrianni等(1999)

彼らもまた、マウスに散発性致死性不眠症が実験的に遺伝することを証明している。

脳のホモジネートにFFIまたは散発性致死性不眠症からとった物質を接種されたマウスは、脳において、それらと同じ様なタイプの病変と分類を持っていた。

FFIも散発性致死性不眠症も、Prp(Sc)断片の分子量は、これらのマウスにおいて、19kDであった。

対照的に、これらの特徴は典型的散発性致死性不眠病、FFI、クロイツフェルトヤコブ病である患者のホモジネートを接種したマウスでは異なっていた。PrP(Sc)の分子量は21kDであったのだ。

 

これらの発見はFFI178番の変異がない時に発生し得るという事を示している。

 

GambettiParchi(1999) は、PrP(Sc)の立体的変化のレパートリーが治療法の発見に貢献するであろうa因子を相対的に制限するであろう事を提唱している。

 

<動物モデル>

Tobler(1996)

ヌルマウスのプリオン蛋白の、概日リズムと睡眠において変質を報告している。

これらのマウスにおける変化は、FFIにおける睡眠の変質と興味深い相同性を持っている、という事を強調している。